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CTOが競合に加わったとき:Mesoliticaの「未来は単独」戦略とAI市場の厳しい現実
2024年11月、私はKhalil Nooh氏(Mesolitica=MaLLaMのオープンソースの旅でどこで出会ったかにより表記が変わる)と1時間45分話し、まるでスタートアップのライフサイクルを濃縮したコーヒーチャットを見ているようだった。
結論からすると、Mesoliticaの物語はマレーシアのAIスタートアップが技術的課題に立ち向かう話にとどまらず、「未来を作る」を「みんなに自作させる」に舵を切る最賢明な創業者たちの生きたケーススタディだ。
哲学を強いられた対立とピボット
話はHusein氏の離脱から始まった。単なる「共同創業者が去る」話ではない。彼はScicom MSC BerhadでAIリサーチ&エンジニアリング上級マネージャー(現在はVP)として、Mesoliticaが構築していたコールセンター向け音声アプリケーションとまったく同じものを実装しかねない立場に就いた。「圧倒的なオファーだったから断れなかった」とKhalil氏は言うが、これは「MaLLaMアプリケーション側で僕が売り込んでいるものと完全に競合する」事態だった。
単なるチームメンバーの退社ではなく、「巨大なレンチが計画に投げ込まれた」瞬間だった。驚いたのはKhalil氏の率直さだ。「アップスキリングとトレーニングに注力している。今年の収益の大半もトレーニング。商業的なものではない」と認めた。技術共同創業者が核となる製品アイデアを企業に持ち込めば、新CTOを探す前にプロダクトマーケットフィット自体を疑わざるを得ない。
AWS移行:クラウド戦略が信用通貨になる瞬間
2024年末、MesoliticaはAzureからAWSへ移行した。技術的理由ではなく、市場参入とアクセスのためだ。17ヶ月の共同作業の末、彼らはAWS USからプレスリリースを獲得した(AWSマレーシアではない)。「多くの疑問を一気に払拭できた」とKhalil氏。マレーシア企業の意思決定者のほとんどは非技術者であり、米国レベルのバリデーションを目にした瞬間、Mesoliticaは「また一つのAIスタートアップ」から「AWS公認パートナー」に変貌した。
新興国では、クラウドプロバイダーのブランドがそのままあなたのブランドになる。AWS USのプレスリリースは、政府契約や企業案件への扉を開ける技術最適化以上の価値があった。
RTM MOU:方言データの金山であり糞山
国営テレビのRadio Television Malaysia(RTM)との提携は紙の上では素晴らしい。ラジオデータにアクセスし、現地方言を理解する音声モデルを訓練できる。「自然な音声=方言も理解できる。だからRTMとのMOUは極めて重要だった。RTMラジオデータにアクセスできるからね」。
しかしデータガバナンスの複雑さがここで学習ポイントの1つだった。RTMが出力音声の権利を保持するため、基盤モデルの学習成果は商業化できるが、データそのものをオープンソース化してはならない。「データをオープンソースにするの、RTMはOK? 無理に決まってる」。
これはKhalil氏が何度も引き合いに出すPOCの罠を象徴する。「去年は大企業とのPOCを取れれば大事件。今年は違う。『この組織とやる? じゃあ契約までどれだけ早く持っていける?』」
誰もがPOCをしたがるが、商業契約には至らない。収益は「まだ不透明」。「未成熟な技術」だからこそ、大臣との顔合わせを得るための「PR戦略」としてPOCが必要。技術を構築する側の我々全員が共感できる話だ。
「Future is Solo」:話題で食いつなぐ
Husein氏不在の間、Khalil氏は「Future is Solo」という話を起動した。最初は典型的なスタートアップピボットのように聞こえたが、説明を聞くうちにAI市場の行く末を映す真実が浮かび上がった。
翻訳とすると、『製品が売れなければプロセスを売れ。AIが売れなければ「AIで作る力」を売れ。』ということだろうか。
これはたんなるPR戦略ではない。メインの収益源になった。「アップスキリングとトレーニングに注力。今年の収益の大半もトレーニング。商業的なものではない」。「一人間が千のエージェントと」という「Future is Solo」は、企業が今本当に困っているのはAIツールの不足ではなく、それを使いこなせる人の不足だという現実に刺さった。
ご興味がある方は、Khalil氏の「The Future Is Solo」ホワイトペーパーはこちら。
日本市場:人口動態がAIチャンスを生む
話は日本の高齢化に及んだ。人口の30%が60歳以上となり、医療負担とAIソリューション需要が同時に急増。高齢者と介護者向け音声AI・自動化ツールに即ビジネスチャンスが生まれる。
Khalil氏は、方言理解音声モデルを日本の地域バリエーションに適用できる可能性を見ているが、データガバナンスの課題はRTMと同様に複雑になるだろう。
エージェンティックAI:RPA+LLMの現実チェック
ここでKhalil氏は技術的かつ容赦なく本音を漏らした。「年中頃に気づいたんだ、エージェンティックAIなんて単なるRPA+LLM……Andrew Ngの定義はLLMの能力を完全に自律的に活用することだが、それはまだ遠い」。
「エージェンティックAI(計画+実行)」と「エージェンティックワークフロー(RPA+LLM)」の区別が重要だ。ほとんどは後者に過ぎず、「全てを自動化できるとはまだ言えない」。
これは屋上から叫ぶべき発見:従来のRPAに言語モデルを載せただけで、いきなり自律AIと呼んでいる。違う。自然言語理解が少し良くなったワークフロー自動化に過ぎない。
SEOとAI:誰もが生成できる時代、「何を生成すべきか」が真の価値
RPA・LLMの話から、AIで何かを生成することと、私たちのプロダクトKafkaiへの影響を議論。
「生成自体に価値はもうない。最新のピボットで分かったのは、クライアントの本当の悩みは何を生成すべきかを知らないことだ」
誰もがChatGPTでコンテンツを量産できる。モートは生成ではなく、キュレーション・戦略・AIのゴミにあふれた世界で生き残るべきものを見極める力。「ChatGPTは記憶と文脈が限られているから、本当のことは教えてくれない。‘本物’と‘偽物’の区切りがつかないのが我々の問題」
これこそ無限AIコンテンツ時代のコンテンツクリエイター・マーケターにとって最も重要な学び。無限のAIコンテンツの中で、真正性と戦略的キュレーションこそ究極の差別化要因になる。
「真正性を保つには? 出て行くしかない」(自分を出すしかない)
オープンソース戦略と投資家のパラドックス
Husein氏離脱後もMesoliticaはオープンソース路線を貫いた。「MaLLaMはオープンソースで提供している」。これは政府クライアントを惹きつけるが、投資家からは「IPの価値は?」と問われる。
『投資家は「裏に何かあるだろ?」と聞きたがる」(保護されたIPや秘密のソース、ただのラッパーやオープンソース技術ではないもの)』。AWSプレスリリースは「多くの疑問を一気に払拭できた」が、根本的なチャレンジは残る。中国のオープンソースモデルがトークンコストを下げ、「創業者にとっては悲劇的だが、アプリ構築者にとっては嬉しい」状況で、独自のモートをどう正当化する?
Khalil氏の答えは『しない。トレーニングに、「Future is Solo」に、メソッドロジーをモデルではなく売ることにピボットする。』
コンテンツマーケター・SMEへの教訓
コンテンツ戦略やブートストラップ起業をしているなら、Khalil氏とMesoliticaの旅から具体的な教訓が得られる:
- 新興国では技術的優位よりブランドバリデーション。AWS USプレスリリースは技術最適化以上の価値があった。
- POCは新しいパイロットだが成約に繋がらない。マーケティング費用として計上せよ。
- プロダクトマーケットフィットが不透明ならプロセスを売れ。「Future is Solo」は危機を収益に変えた。
- 日本では人口動態が運命。60歳以上30%という医療自動化チャンスは欧米には十年先だ。
- エージェンティックAIの大半はRPA+LLM。高い「自律エージェント」に払わない。
- コンテンツ戦略はAIがあっても変わらないが、価値は「何を生成するか」だ。
- オープンソースは政府を惹きつけるが投資家を怯ませる。「実際に独自なのは何?」に明確に答えよ。
- 真正性が最後のモート。無限AIコンテンツの中で、個人ブランドと本物の関係こそ守れる資産。
残された問い
Khalil氏と二時間近く幅広く語り、頭のリソースは限界に達した。別れを告げたが、夜、メモを整理すると残った不確実さ――おそらく多くのAI創業者が共有する問い――が浮かんだ:
- AI自身が消費者になるとき、AI生成コンテンツの価値をコンバージョン指標以外でどう定量化する?
- 「AIビルダー」の定義と最低限の条件は? プロンプトを書けるか、第一原理を理解できるか?
- オープンソースの信認と投資家が求める商業IPをどう両立?
- トークンコストが下がり続ける中、1,000~10,000のSMEユーザーをマージンを焼かずに捌く持続可能な経済モデルは?
修辞疑問ではない。これらに答えられなければ、持続可能なビジネスではなくAI墓場の新しい cautionary tale になる。
まとめ:未来はソロ、でも今は地獄のピッチ
Khalil氏の話は勝利の凱旋ではなく、リアルタイムで綴られるサバイバルマニュアルだ。Mesoliticaが「マレーシア決定版LLMを作る」から「Future is Solo」の夢を売るにピボントしたのは戦略的妙手ではなく、市場の現実がプロダクトロードマップをぶち壊した強制進化だった。CTOの離脱、POCの煉獄、投資家の懐疑――これは固有の問題ではない。新興国のAI創業者たちが「より良いモデル」があっても課金できないことに気づく標準カリキュラムだ。
厳しい教訓? 2024年のAIランドスケープで、モートはモデルではない。釣り竿の使い方を教える能力こそ、誰もが高級寿司を売ろうとしている中での唯一の防御線だ。AWSプレスリリース、RTMパートナーシップ、オープンソースの信認――これらはプロダクト機能ではなく、技術を理解しないが成果を渇望する市場への「信頼構築作業」だった。
コンテンツマーケター、SME、同じ創業者たちへ、Mesoliticaの圧縮されたライフサイクルが示す結論は明確:トークンコストがゼロに近づき、POCは丁寧な拒絶になる時代、真正性と教育こそ唯一の防御資産だ。「Future is Solo」の話が刺さるのは、大多数のAI企業が認めたがらない真実に触れているから――我々は自律エージェントを作っているのではない。人間の手が巧みに扱う、わずかに賢くなったツールを作っているだけだ。
残った問い――価値の定量化、ビルダーの定義、オープンソースとIPのバランス、中小企業向け持続モデル――はMesoliticaだけのものではない。業界全体の成長痛だ。もしKhalil氏の「未来はソロ」が正しければ、今AI企業が売れる最も価値の高いプロダクトは、AIそのものではなく、これらの問いに runway を焼かずに立ち向かう知恵かもしれない。
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