先日、都内の某所で、弊社SEOスペシャリストのパートナー、CONTENTS SEO LAB代表の郡司武氏と近況報告を含む打ち合わせを行った。その際、彼から最新のAIとSEO関連動向についてレクチャーを受けた。90分の時間はあっという間に過ぎ、以下にできる限りメモした内容を皆様と共有する。
はじめに ―AIが「購買委員会」に加わった―
2025年は、AIが「便利な検索ツール」から「購買の意思決定パートナー」へと決定的に変わった年だった。
OpenAIは2025年4月にChatGPTへショッピング機能を搭載。同年9月にはチャット内で決済まで完結する「Instant Checkout」を開始し、さらに11月には「Shopping Research」機能を追加した。この機能は、ユーザーの予算・用途・優先事項をヒアリングした上で、複数の情報源を横断的に調査し、パーソナライズされた「バイヤーズガイド」を生成する。
つまり、AIはもう単に検索結果を返すだけではない。ユーザーの代わりに商品を調べ、比較し、「あなたにはこれが合う。理由はこうだ」と推薦する存在になっている。
このレポートでは、パートナー企業であるCONTENTS SEO LABの調査をもとに、AIが購買行動をどう変えているか、そして中小企業が今すぐ取り組むべき「情報設計」について解説する。
混沌 ―データが示す「静かな革命」―
BtoB購買 ―AIはすでに意思決定者の「信頼する相談相手」―
複数の国内調査が、BtoB購買におけるAIの浸透を明確に示している。
アイオイクス(SEO Japan)の調査(2025年8月、n=437)によると、BtoB製品選定時の情報収集手段としてWeb検索を利用する割合は90.6%で依然トップだが、AI検索も43.5%に達している。また、Google検索のAI Overviews(生成AIによる要約)を参考にしている人は約4割にのぼる。
LANYの調査(2025年8月、n=110)では、さらに踏み込んだ実態が見えてくる。回答者の45.4%がサービス検討プロセスの6割以上をAIに頼っており、46.4%が「もともと検討していなかったサービスをAI経由で知り、契約した」と回答している。AIの推薦が契約判断に影響したと答えた人は87.3%にのぼり、AI経由で選んだサービスへの満足度は92.8%と極めて高い。
注目すべきは、情報源としての信頼度だ。同調査ではベンダー公式サイト(26.4%)、比較サイト(22.7%)に次いで、生成AI(20.0%)が3位に入り、ベンダーの営業担当(16.4%)を上回っている。
TRENDEMON JAPANの調査(2025年10月)でも、売上5,000万円以上または従業員200名以上のBtoB企業担当者の91.9%が、競合製品の情報収集に生成AIを活用しているという結果が出ている。
そしてエヌケーエナジーシステムの調査(2026年1月、n=180)は、営業との関わり方に起きた地殻変動を数値で裏付ける。73.9%が「営業担当不在でも社内検討が進んだ」と回答し、72.8%の最終決裁者が「全ベンダーの営業と話す前に契約先を決めた」と答えている。AIに求める価値の第1位は「自社に合うかどうかの整理」(50.0%)、第2位は「比較基準の整理」(38.9%)だった。
BtoC購買 ―AIショッピングはすでに「普通のこと」に―
BtoC市場でも、AIの購買への影響は急速に拡大している。
BCGの年末商戦調査(2025年10月、10カ国・n=10,240)によると、消費者の48%がすでに年末セールで生成AIを活用済み、または活用予定と回答しており、前年から9ポイント増加している。GenX世代(42%、前年比+8pt)やベビーブーマー世代(31%、同+7pt)にも浸透が進んでおり、もはやアーリーアダプターだけの話ではない。
Adobe Digital Insightsの分析(2025年7月)では、AI経由の小売サイトへのトラフィックが前年比4,700%増加し、AI経由の訪問者はエンゲージメントが10%高く、滞在時間も32%長いことが報告されている。
日本市場に目を向けると、BCGのGlobal Consumer Radarでは日本の生成AI利用率が48%に達し、2023年9月の16%から3倍に増加している。
検索行動そのものが変わっている
従来の日本語検索は「表参道 焼肉」のようなキーワードの断片だった。しかしAI時代の検索は「表参道で子供連れで入れるカルビが美味しい焼肉屋」のように、会話的で具体的なクエリに変化している。
この変化が意味するのは、商品やサービスの情報が「キーワードに引っかかる」だけでは不十分になったということだ。AIが「この人にはこの商品が合う」と判断できるだけの、構造化された情報が必要になっている。
現実 ―なぜ多くの商品ページは「AI不合格」なのか―
CONTENTS SEO LABの調査で明らかになったのは、多くの企業の商品ページが「AIの推薦テスト」に落ちるという現実だ。
よくある失敗パターン
スペックは書いてあるが「誰にとっての価値か」がない。 例えば、ある素材メーカーが「耐水性」を商品特長としてページに記載しているとしよう。しかし、同じ「耐水性」でも、飲料ラベルメーカーにとっては「濡れても剥がれないからクレーム・返品がゼロになる」という価値であり、選挙ポスター印刷業者にとっては「台風シーズンでもポスターが生き残る」という全く別の価値になる。
これは一つの核心的な原則を示している。
前提 × 視点 = 価値
同じスペックでも、使う人の前提(業種、課題、使用場面)と視点(何を達成したいか)が異なれば、得られる価値はまったく違う。しかし多くの商品ページは「耐水性があります」で止まっている。AIはこの情報だけでは、誰にこの商品を推薦すべきか判断できない。
「誰向けではないか」が書かれていない。 企業は当然、全員に売りたい。しかしAIが信頼する情報とは「このサービスはこういう人には向いていない」というトレードオフの開示だ。LANYの調査で「AIを信頼する理由」として最も多かったのは「営業が隠すリスクや注意点を教えてくれる」(45.5%)という回答だった。つまり、正直さこそがAI時代の最大の競争優位になる。
FAQが物流の質問ばかりで、意思決定の質問がない。 「送料はいくらですか?」「返品できますか?」ではなく、AIが求めているのは「従業員30名の製造業で、月額予算5万円の場合、このツールは投資対効果があるか?」といった意思決定を支援する情報だ。
レビューと商品の価値訴求がつながっていない。 レビューは存在するが、「この商品のどの価値をどのユーザーが評価しているか」という構造になっていないため、AIが推薦の根拠として活用できない。
数字 ―「AIに選ばれる」ための情報設計―
ステップ1 コンテンツの情報設計を見直す
まず取り組むべきは、商品・サービスページの情報構造の再設計だ。CONTENTS SEO LABとの共同調査で効果が確認されたフレームワークを紹介する。
1. ワンライン要約+3つの特長(30〜60文字+特長3点)
AIが最初に読み取るのはこの部分だ。曖昧な表現ではなく、具体的で差別化された情報を記載する。
2. ユースケースシナリオ
抽象的な「活用例」ではなく、具体的な場面を描写する。「平日の夕食準備に」「従業員50名のIT企業の社内研修に」「年間売上1億円規模のECサイトに」など。
3. ペルソナ別の価値マッピング
ターゲットユーザーごとに、得られる価値(メリット)、受け入れるべきトレードオフ(デメリット)、適合判断の基準(チェックリスト)を明示する。これが「前提 × 視点 = 価値」を具現化した形だ。
4. 意思決定FAQ
「このサービスは月額いくらですか?」ではなく「従業員20名のマーケティングチームにとって、この投資は3ヶ月で回収できるか?」のような質問に答える形式に変える。
5. 信頼シグナル
受賞歴、第三者レビュー、製造工程の透明性、具体的な導入実績など。
ステップ2 構造化データでAIに「名刺」を渡す
情報設計を整えたら、次はその情報をAIが機械的に読み取れる形式にする必要がある。ここで登場するのが「構造化データ」だ。
構造化データとは、Webページの内容を検索エンジンやAIが理解しやすいように、決まったフォーマットで記述する仕組みのことだ。一般的にはJSON-LD(JavaScript Object Notation for Linked Data)という形式が使われる。
たとえるなら、商品ページの「名刺」のようなものだ。人間がページを読めば「これは中小企業向けのマーケティングツールで、月額3万円だ」とわかるかもしれないが、AIは必ずしもそうではない。構造化データは「これはソフトウェアで、対象者は従業員200名以下の中小企業で、価格は月額3万円で、特長はこういう属性を持っています」とAIに直接伝える。
具体的な実装は技術者の領域だが、経営者やマーケティング担当者が知っておくべきポイントは以下の通りだ。
構造化データで伝えられること
商品やサービスの基本情報(名前、説明、価格)に加えて、対象ユーザー、用途、独自の特性などをペルソナごとに記述できる。「誰に」「どんな価値を」提供するかを、機械が読み取れる形で明記するイメージだ。
なぜ今、重要なのか
GoogleのAI OverviewsやChatGPTのShopping Research機能は、構造化データを参照して推薦候補を構築している。構造化データがなければ、AIの「候補者リスト」に入ること自体が難しくなる。
中小企業にとってのチャンス
CONTENTS SEO LABの分析によると、大企業であっても商品ページの構造化データ対応は進んでいないのが現状だ。つまり、早く動いた中小企業が、AIの推薦において大企業を出し抜ける可能性がある。
ステップ3 EEAT ―信頼の「層」を積む―
構造化データが「AIの候補者リスト」に入るための条件だとすると、EEAT(Experience, Expertise, Authoritativeness, Trustworthiness ―経験、専門性、権威性、信頼性)は、そのリスト内での「順位」を決める要素だ。
GoogleもOpenAIも、情報の信頼性を重視する方向で進化している。たとえAIが商品を推薦したとしても、ユーザーが最終的にクリックするのは「どこかで見たことがあるブランド」であることが多い。
つまり、継続的なメディア発信(オウンドメディア、SNS、業界メディアへの寄稿など)を通じて「このブランドは信頼できる」という認知を積み上げておくことが、AI推薦の効果を最大化する。
この手法のメリットとデメリット
✓ やるべき理由
SEOとAI対策が一石二鳥になる。 情報設計の改善は、従来のGoogle検索でも上位表示に寄与する。AIの推薦対策とSEO対策が同じ方向を向いているため、投資の無駄がない。
中小企業が先行者優位を取れる。 大企業でも対応が進んでいない領域だからこそ、早期に動くことで「AIに推薦される」ポジションを確保できる可能性がある。
コンバージョンの質が上がる。 AI経由で来訪するユーザーは、すでに「自分に合うかどうか」を理解した上で来ている。LANYの調査における92.8%の満足度は、AIが事前にフィット感を検証していることの証左だ。
営業リソースの効率化。 社内検討の73.9%が営業不在で進む時代、商品ページの情報品質がそのまま営業力になる。
✗ 難しい点
「誰向けではないか」を明記する勇気が必要。 従来のマーケティングでは「全員に売る」が基本だった。ターゲットを絞る情報開示は、心理的な抵抗が大きい。
実装にはコストがかかる。 構造化データの追加やCMSの改修には技術的なリソースが必要。月額3,000円程度のツールだけで対応するのは現実的に難しく、外部パートナーの活用も検討すべきだろう。
成果が出る時期は読めない。 AIクローラー(CommonCrawl、Googlebotなど)のインデックス更新スケジュールは企業側でコントロールできない。「公開したら即座にAIに反映される」とはいかない。
計測手段がまだ未成熟。 「AIにどれだけ推薦されているか」を正確に測る標準的なツールはまだ確立されていない。Google Search Consoleやアクセス解析でAI経由のトラフィックを追跡することはできるが、推薦の「量」や「順位」の可視化は今後の課題だ。
結論 ―スペックは「何であるか」を伝え、価値は「誰のためか」を伝える―
ここまでのデータが示すのは、一つのシンプルな事実だ。
AIはマーケティングコピーに興味がない。AIが求めているのは、「この商品は誰に合い、何を得られ、何を諦める必要があるか」という構造化された正直な情報だ。
中小企業が今すぐ始められることを整理しよう。
まず、自社の商品ページをChatGPTに聞いてみる。 「〇〇(自社商品名)は、どんな人におすすめですか?」と聞いたとき、AIが的確に答えられるだろうか。答えられないなら、ページに情報が足りていない。 ちなみに私も試してみたところ、一つ前の古いバージョンの方が適切な回答を示していました。現在のバージョンこちらは、一週間前にリニュアルした。
次に、ペルソナ別の価値を言語化する。 同じ商品でも、ユーザーAにとっての価値とユーザーBにとっての価値は違う。その違いを明示することが、AIの推薦精度を上げる。
そして、正直さを競争力にする。 「このサービスは〇〇な方には向いていません」と書くことは、短期的には機会損失に見える。しかしAIの時代では、トレードオフの開示が信頼につながり、信頼が推薦につながる。
この変化は加速している。日本の生成AI利用率は2023年の16%から2025年には48%へ急増した。BtoB購買の73.9%は営業不在で進み、46.4%のバイヤーがAI経由で「知らなかったサービス」を契約している。
対応を始めるのに、来月では遅いかもしれない。もちろん、弊社のプロダクトでもこの未対応という状況だ :sweat_smile:。
最後に、この記事だけではテーマが大きすぎるかもしれないため、AIだからこそこの時代に適した「営業」という仕事について考察していきたいと思います。
✓ やってみるべき人
- BtoB・BtoCの商品やサービスをオンラインで販売している
- 商品ページがスペック中心で、ペルソナ別の価値訴求ができていない
- AIショッピングアシスタントやAI Overviewsでの露出を増やしたい
- 営業リソースが限られており、コンテンツで営業力を補完したい
✗ 今は見送ってよい人
- まだプロダクト・マーケット・フィットが確立していない段階
- 販売チャネルが完全にオフライン・対面で、デジタル接点がない
- 自社Webサイトをまだ持っていない(まずはサイト構築が先)
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