最終更新:2026年10月1日。

本記事は2024年7月12日に公開の同名記事を全面改訂したものです。旧版は「Chromeが2024年第3四半期までにサードパーティCookieを完全制限する」という前提で書かれていました。その計画は、もう存在しません。

サードパーティCookieは、今ごろ消えているはずでした。実際には消えていません。旧版を書いた私自身、廃止を前提に対策を勧める側に立っていました。結果から言えば、その前提は外れました。

Googleは2024年7月、ChromeでのサードパーティCookie廃止計画を撤回しました。2025年4月には撤回を確定させ、強制的な全廃も新しい選択プロンプトも実施しないと表明。その後2025年10月には、代替技術として整えてきたPrivacy Sandboxの主要APIを、採用の低さを理由に廃止しました。

見出しは完全に変わりました。しかし、戦略の助言は変わっていません。本記事では、実際に何が起きたのかと、2026年時点のブラウザ環境を整理します。そのうえで、旧版の結論「ファーストパーティデータと直接の関係構築に投資せよ」がなぜ生き残ったのかを説明します。

前提整理:サードパーティCookieとは何か

サードパーティCookieは、閲覧中のサイト以外のドメインがブラウザに保存する小さなデータです。広告ネットワークや計測ツールがこれを使い、複数のサイトをまたいで同じユーザーを識別してきました。リターゲティング広告や詳細なアトリビューションが成り立っていたのは、この仕組みのおかげです。

一方、ファーストパーティCookieは訪問中のサイト自身が発行します。ログイン状態の維持やカートの保存に使われ、規制の対象外です。

長年、ブラウザ各社はサードパーティCookieの制限を競ってきました。Safariは2020年に既定でブロック。Firefoxは2022年にサイトごとの分離へ移行しました。Chromeだけが最後まで踏みとどまったのです。Googleの広告事業が、このCookieが支えるエコシステムを頼りにしていたからです。その「踏みとどまり」がどう終わったか。それがこの2年の物語です。

実際に起きたこと:撤回の年表

旧版は「Chromeが2024年第3四半期までに完全制限する」と書いていました。実際の経緯は次の通りです。

まず2024年1月。Chromeはユーザーの1%でサードパーティCookieを制限し、広告業界のテストを開始しました。猶予期間などの例外措置で、サイトの重要な機能は守られました。

次に2024年7月22日。GoogleはサードパーティCookieを廃止しないと発表しました。代わりに、ユーザー自身が選択する新しい画面をChromeに導入する案が示されました。背景にあったのは、英国の競争・市場庁(CMA)の監視です。強制的な全廃は、Google自身の広告基盤に有利に働きかねないと見なされていたのです。

2025年4月22日には、撤回が確定しました。Googleは「ChromeにおけるサードパーティCookieの現行の選択方式を維持する」と発表しました。検討していた独立したプロンプトも導入しません。廃止計画はここで完全に棚上げされました。

そして2025年10月17日。GoogleはPrivacy Sandboxの10の技術を廃止すると発表しました。Topics、Protected Audience、Attribution Reportingなど、広告向けの主要技術が対象です。理由は「採用率の低さと、期待された価値に関するエコシステムからのフィードバック」です。

生き残ったのは、地味な基盤技術だけです。残ったのはCHIPSとFedCMです。CHIPSは、サイトごとに分離され横断追跡に使えないCookieの仕組み。FedCMは、プライバシーに配慮したログイン連携の仕組みです。ほかにPrivate State Tokens(不正防止)とStorage Access APIも残りました。全体像は公式のステータスページで確認できます。

ひとつ補足があります。旧版は代替技術としてGoogleのFLoC(Federated Learning of Cohorts)を挙げていました。Googleは2022年にFLoCを捨ててTopicsへ切り替えました。そのTopicsも今回の廃止対象です。名前の挙がった後継技術は、すべて消えました。残ったのは肝心のCookieそのものです。

2026年のブラウザ環境

「サードパーティCookieは消えたのか」。答えはブラウザごとに違います。この分裂こそが、計画を立てるうえでの現実です。

ブラウザ サードパーティCookieの既定 時期
Chrome 許可(設定でブロック可。シークレットモードはブロック) 2025年4月に撤回確定
Safari ブロック(ITP) 2020年3月
Firefox サイトごとに分離(Total Cookie Protection) 2022年6月
Edge 既知のトラッカーを制限(「バランス」が既定) 継続中
Brave ブロック 継続中

Safariは2020年3月からサードパーティCookieを既定で全面ブロックしています。JavaScriptで発行したファーストパーティCookieの保存期間も最長7日に制限されます。FirefoxのTotal Cookie ProtectionはCookieを消しません。サイトごとの容器に閉じ込める方式です。サイト横断の識別が構造的に不可能になります。

Safari、Firefox、Braveだけでも、サードパーティCookieは既定で使えません。Chromeでブロック設定やシークレットモードを使う人は多くいます。広告ブロッカーの利用者も加えると、実質Cookieレスのトラフィックはさらに増えます。Chromeの方針に関係なく、この層は消えません。日本では影響がさらに大きくなります。スマートフォンの約3分の2がiPhoneで、モバイルではSafariが主要ブラウザだからです。

戦略の助言が変わらなかった理由

旧版の結論は「ファーストパーティデータ、オーディエンスとの直接の関係、同意ベースのマーケティングに移行せよ」でした。撤回によって、この助言はむしろ強くなりました。理由は3つあります。

1つ目の理由です。Chromeの決定は、閉じたブラウザを開きませんでした。SafariとFirefoxの制限は、Chromeの計画に依存していません。サードパーティCookieに依存した計測は、すでにオーディエンスの大きな部分を取りこぼしており、それは今も続いています。ChromeがCookieを残しても、そこで取り戻せるものはありません。

2つ目です。代替技術のスタックは消えました。2023年から2024年にかけて、TopicsやProtected Audienceへの対応を準備したチームはどうなったか。廃止されたAPIに向けた作業を抱えることになりました。教訓は一般化できます。単一ベンダーのロードマップに依存する戦略には、このリスクが常につきまいます。自社ドメイン、自社の同意記録、自社の顧客データの上に組み立てた戦略には、この心配がありません。

3つ目です。規制は逆方向に進み続けました。Chromeが技術的な計画を緩める間にも、プライバシー関連法は強化されました。この点については、後ほど詳しく述べます。

マーケター、コンテンツクリエイター、SEO実務者にとって何が変わったか

旧版は4つの変化を予想していました。ターゲティング精度の低下、ファーストパーティデータへの移行、計測の困難化、同意ベースのマーケティングです。2026年時点の成績表は次の通りです。

広告ターゲティングは、壊れたのではなく劣化しました。サイト横断のリターゲティングは、通常モードのChromeでは今も動きます。Safari、Firefox、Brave、シークレットモードでは動きません。オーディエンスリストの劣化は以前より速くなりました。Cookie経由の精密ターゲティングは部分的な手段となり、複数のチャネルのひとつとして扱うのが妥当です。

計測とアトリビューションは、実際に難しくなりました。同意バナー、iOSの制限、ブラウザのストレージ分離により、コンバージョンのデータはブラウザ計測からこぼれ落ちます。実務上の答えはサーバーサイドです。代表例は、Googleタグマネージャーのサーバーコンテナ、MetaのコンバージョンAPI、Google広告の拡張コンバージョンです。いずれも自社サーバーから広告プラットフォームへデータを送ります。照合には、ハッシュ化したメールアドレスなどのファーストパーティの識別子を使います。廃止騒動の時期にこの仕組みを組んだチームは、そのまま稼働させています。ブラウザの既定値に関係なく、データの質を上げられるからです。

プログラマティック広告の予算については、慌てずに見極めてください。2023〜2024年に代理店が売っていた緊急移行プロジェクトや「Privacy Sandbox対応監査」は、予算から外してよいものです。残すべき投資は、同意管理、ファーストパーティデータの収集、どのブラウザの設定変更にも耐える計測の基盤です。

コンテンツとコンテキストターゲティングは、価値が上がりました。ユーザー単位の追跡が不安定になると、「そのページが何についてのものか」というシグナルが再び強くなります。閲覧履歴ではなくコンテンツの内容に合わせて広告を出すコンテキスト広告は、Cookieを一切必要としません。言語モデルの進化で、文脈解析の精度はかつてのキーワードマッチングとは比べものにならないほど高まっています。コンテンツ制作者とSEO実務者にとって重要なのはここです。ユーザーの意図に一致した良質なコンテンツは、追跡技術が消えても残るシグナルだから、その価値は上がり続けます。

日本企業にとっての2026年

旧版はNyle株式会社の調査を引用しました。日本企業がコンテンツマーケティング、Cookieレス広告、ファーストパーティデータへ向かう動きを紹介したのです。あれから2年が経ち、その方向性は正しかったと私は考えています。2026年の状況には、これに規制の層が加わります。今や日本で本質的な制約となっているのは、この規制の側です。

改正電気通信事業法(外部送信規律)は、2023年6月16日に施行済みです。対象は通信事業者に限らず、ほとんどの商用サイトが含まれます。アクセス解析タグ、広告タグ、埋め込み動画、チャットツールなどが対象です。ユーザー情報を外部サービスへ送信する場合は、4項目の通知または公表が必要です。送信先、送信する情報、利用目的、オプトアウトの方法です(総務省)。この義務は、ブラウザがCookieをどう扱うかとは無関係に存在します。

改正個人情報保護法は2026年7月に成立し、さらに踏み込みました。メールアドレス・電話番号・Cookie IDなどを「連絡可能個人関連情報」と位置づけ、その不適正な利用と不正取得を禁止します。日本の個人情報保護法として初めて課徴金制度も導入されました。主要な規定は公布から2年以内に施行され、罰則の一部は2027年1月から始まります。

実務上の意味はこうです。日本企業にとって、もはや主戦場はブラウザの設定ではありません。同意管理と情報開示です。誰が何に同意したかを記録し、タグの発火を同意状態に連動させ、外部送信の公表ページを最新に保つ。こうしたCMP(同意管理プラットフォーム)の運用は、あれば便利なものではなく標準装備になりました。

旧版が指摘した中小企業の視点も生きています。ユーザー単位のデータが乏しくなる環境では、大企業が持つ膨大なデータの優位は縮小します。コンテンツの質と、オーディエンスとの直接の関係で勝負するのは、小さなチームでも実行できる戦略です。そして、それはまさにKafkaiが手伝う領域です。あなたの専門知識を、一貫した構造を持つコンテンツへ変えること。誰の追跡データにも頼らずに読者を獲得する手伝いをすること。これがKafkaiの役割です。

2026年の実務チェックリスト

撤回を受けて自社の体制を見直すなら、優先順位は次の順です。

  1. まずブラウザ構成比と同意率を確認します。 解析ツールでトラフィックをブラウザ別に分け、SafariとFirefoxの比率を把握します。同意バナーの同意率も計測してください。これが、自社のCookieレス化による影響の実際の大きさです。
  2. 外部へ送信している情報を棚卸しします。 ユーザーデータを送信するタグと埋め込みをすべて洗い出します。電気通信事業法が求める公表事項(送信先・情報・目的・オプトアウト)を整えてください。
  3. 同意管理を整えます。 タグマネージャーと連携するCMPを導入してください。「拒否」は「同意」と同じ手数で選べるようにし、記録を後から提示できる状態にしておきます。
  4. 重要な計測はサーバーサイドへ移します。 サーバーサイドGTM、MetaコンバージョンAPI、拡張コンバージョンで、同意を得たユーザーの計測品質を取り戻します。ブラウザのCookieの挙動に頼らなくて済みます。
  5. ファーストパーティデータを積み増し続けます。 会員制、メール、ロイヤルティプログラムは、同意のあるデータを生み出します。ブラウザのアップデートで失われることはありません。
  6. 廃止されたAPIには投資しません。 Privacy SandboxのAPI連携を提案してくるベンダーや代理店がいれば、2026年の答えは「ノー」です。

まとめ

サードパーティCookieは消えませんでした。ChromeはCookieを残し、Googleは代替技術のほうを廃止しました。しかし、かつての予測をもっともらしく見せた力は、すべて残っています。SafariとFirefoxのブロック、日本をはじめ各国で強化されるプライバシー法、同意を拒否するユーザー。どれも動いていません。

廃止が叫ばれていた年月に本質的な仕事をしたマーケターは、Googleの方針転換で何も失いませんでした。ファーストパーティデータ、同意管理、サーバーサイド計測、それ自体で読む価値のあるコンテンツ。これらはすべて残っています。ブラウザベンダーがデータ戦略を決めてくれるのを待っていた側は、2年分の不確実性だけを手にしました。

この2年の本当の教訓は、こうです。自社のデータ、自社の同意記録、自社のコンテンツを握ること。それ以外はすべて、他人のロードマップへの依存です。